日本の「高度専門職(Highly Skilled Professional)」ビザのポイント審査において、配点の大きなウェイトを占めるのが「年収」です。特にGAFAなどの外資系IT企業や、急成長中のスタートアップに従事するエリート層にとって、報酬の大部分を占めるストックオプションやRSU(譲渡制限付株式)が年収としてカウントされるかどうかは、ポイント70点のクリア、ひいては永住権への最短ルートを左右する死活問題となります。
当記事では、入管法における年収の厳格な定義と、株式報酬を確実に予定年収に組み込むための客観的な立証手順を解説します。
1. 入管が認める「年収」の厳格な定義と2つの壁
【サマリー】単なる付与(Grant)段階の株式は算入不可です。今後1年間に権利が確定(Vest)し、かつ日本国内の機関が費用を負担している報酬のみが年収として認められます。
大前提として、高度専門職のポイント計算における年収とは「今後1年間に日本の受入機関から受ける予定の報酬」です。ここで多くの申請者が「将来もらえるはずの株の総額」を安易に合算して申請し、不許可となるケースが散見されます。入管の審査は以下の2点に集約されます。
① 「確実性」の証明:これから1年間にVest(権利確定)するか
入社時に「総額1,000万円分のRSUを付与(Grant)する」と契約書に書かれていても、それが4年間に分割して権利確定(Vest)する場合、ポイント計算に含めることができるのは「今後1年間にVestされる予定の250万円分」のみです。まだ現実に手に入る保証がない未確定の株式は、入管法上の予定年収には一切算入できません。
② 「海外法人からの報酬」という壁
米国本社などから直接株式が付与され、日本の現地法人が一切関与(費用負担)していない株式報酬の場合、原則として「日本国内の機関からの報酬」とはみなされず、年収から除外されます。これを回避するには、出向契約書やグループ間のチャージバック協定(日本法人が本社に株式相当額の費用を支払っている証明)を提出し、その株式が「日本での役務提供に対する対価」であることを論理的に紐づける高度な疎明が必要です。
2. RSU(譲渡制限付株式)を年収に加算するための立証手順
【サマリー】RSUを年収に組み込むには、雇用契約書上の明記に加え、権利確定予定表と証券口座の残高、源泉徴収票の金額を完全に一致させる必要があります。
RSUはストックオプションに比べ、権利確定時の価値が明確であり、給与として源泉徴収されるケースが多いため、比較的年収として認められやすい傾向にあります。しかし、そのためには以下の客観的な証拠資料のセットが不可欠です。
- 英文契約書と和訳: 雇用契約書や付与通知書(Grant Notice)において、RSUが労働の対価として支給されることが明記されていること。
- ベスティング・スケジュール(権利確定予定表): 今後1年間に、いつ、何株がVestされる予定なのかを明確に示す企業発行のデータ。
- 税務書類との整合性: 既にVestされた過去のRSUがある場合、それが日本の「源泉徴収票」や「確定申告書」において給与所得として正しく申告・課税されていること。税務上の処理と入管への申告額に1円でもズレがあれば、不透明な所得として容赦なくポイントから除外されます。
3. 未上場企業の「ストックオプション」という難問
【サマリー】未上場企業のストックオプションは客観的な時価算定が困難なため、税理士等の第三者機関による評価証明書や財務データを添付し、評価の妥当性を証明します。
スタートアップ企業などで付与される未上場のストックオプションの場合、「その権利に今いくらの価値があるのか」をどう算定するかが最大の争点となります。上場企業のように公開された株価がないため、入管の審査官が自ら価値を計算することはできません。
申請者や企業の自称する株価ではなく、税理士や公認会計士といった第三者機関による「株価算定書(時価純資産法やDCF法などを用いた評価)」や、直近の資金調達における株価の客観的データを事業計画書に添付する必要があります。この手順を踏まなければ、ストックオプションの価値は「算定不能(ゼロ円)」として処理されます。
4. 実務的Q&A(株価変動リスクとESPP)
【サマリー】株価下落による予定年収の目減りは更新時のリスクとなります。また、自己資金で購入するESPP(従業員株式購入計画)の割引額は原則として年収に算入できません。
Q. 申請時に計算したRSUの株価が、その後暴落して実際の年収が下がった場合どうなりますか?
A. 高度専門職ビザのポイント計算は「申請時点での予定年収(申請時の株価や為替レートで計算)」で行われるため、取得後に株価が下落しても直ちにビザが取り消されることはありません。しかし、次回の在留期間更新の際に、実績としての年収が下がったことでポイントが70点を下回ってしまった場合、高度専門職ビザの更新はできず、他の就労ビザへダウングレードする必要があります。
Q. 会社の自社株を割引価格で買えるESPP(従業員株式購入計画)の割引分は年収に入りますか?
A. 原則として入りません。ESPPは従業員が自らの給与(自己資金)を天引きして株式を購入する制度であり、「労働の対価として会社から無償で付与される報酬」とは性質が異なるためです。入管法上の報酬額の計算からは除外して申告するのが安全なアプローチです。
結論:複雑な報酬体系こそ「法と税の整合性」が必要
高度専門職ビザのポイント計算は、単純な足し算ではありません。特に株式報酬が含まれる場合、入管法、日本の税法、そして企業法務の三要素を統合した「立証ロジック」が不可欠です。あなたの年収が正当に評価されず、永住権へのチャンスを逃してしまう前に、自社の報酬体系を入管が審査可能な「客観的データ」に変換する厳格な法務手順を構築してください。
株式報酬を含むポイント計算や、高度専門職ビザの客観的立証については、以下のガイドポータルからご確認ください。