外国人社員を雇用する中で、業務中の事故(労災)や予期せぬ重病により、数ヶ月に及ぶ長期入院や休職を余儀なくされるケースがあります。この時、企業の人事担当者と本人が最も懸念するのが「現在持っている就労ビザ(在留資格)が取り消されないか」、そして「次回のビザ更新は可能か」という点です。
本記事では、休職期間がビザに与える法的な影響と、不許可リスクを回避し、合法的に在留を継続・更新するために企業が整えるべき客観的な証明アプローチを徹底解説します。
1. 入管法の「3ヶ月ルール」と正当な理由の証明
入管法第22条の4では、「正当な理由なく継続して3ヶ月以上、本来の在留活動(就労など)を行わない場合、在留資格の取り消し対象となる」と規定されています。しかし、労災によるケガや病気の治療のための入院・休職は、法的に明確な「正当な理由」として認められます。
したがって、休職期間が3ヶ月を超えたからといって、ある日突然ビザが取り消され強制送還されることはありません。ただし、入国管理局に対して「働いていないのは病気・ケガの治療という正当な理由があるためだ」という事実を、客観的な医療記録や会社からの証明書で立証できる状態を保つことが大前提となります。
2. 「労災(業務上)」と「私傷病(業務外)」での法務対応の違い
外国人であっても、日本の労働基準法や社会保険制度は完全に適用されます。休職の理由が業務上か業務外かによって、企業が取るべき対応は大きく異なります。
業務上のケガ・病気(労災)の場合
労働基準法第19条により、業務上の負傷や疾病による療養期間中およびその後30日間は、解雇が厳格に禁止されています。「働けないならビザが切れる前に辞めてもらう」といった拙速な対応は不当解雇となり、重大なコンプライアンス違反を引き起こします。企業は労災保険の「休業補償給付」の手続きを速やかに行い、本人の治療を支援する義務があります。
私生活でのケガ・病気(私傷病)の場合
業務外の病気やケガの場合、会社の就業規則に定められた「休職期間」が適用されます。健康保険から「傷病手当金」を受給しながら療養することになりますが、休職期間が満了しても復職できない場合は、就業規則に則り「自然退職(または解雇)」となるのが一般的です。退職となった場合、その時点から入管法の「3ヶ月ルール」のカウントダウンが実質的にスタートするため、本人は帰国または別の在留資格への変更を検討する必要があります。
3. ビザ更新審査を突破するための「復職の証明」
最も大きなハードルとなるのが、休職期間中に「ビザの更新時期(在留期間の満了日)」が到来した場合です。働いておらず、給与所得が著しく減少している状態での更新審査となるため、以下の書類を揃え、「生活の安定性」と「復職の確実性」を論理的に証明しなければなりません。
- 医師の診断書: 現在の病状と、将来的に就労が可能となる見込み時期が明記された詳細なもの。
- 会社発行の休職証明書: 会社として正式に休職を認めており、雇用契約が継続していることを証明する書類。
- 公的給付の受給証明: 労災の休業補償給付や、健康保険の傷病手当金の支給決定通知書。(休職中の生活基盤が維持されていることの証明)
- 復職計画書: 治療終了後、いつから、どのような業務内容で(必要であれば時短勤務などの配慮を含め)職場復帰するのかを具体的に記載した計画書。
もし診断書等で「回復の見込みが立たず、復職の時期も完全に未定」という状態であれば、就労ビザの更新は極めて困難になります。休職中の外国人社員のビザ更新は通常の審査とは異なる厳格な基準で見られるため、早い段階で客観的な立証資料の周到な準備が不可欠です。
4. 見落としがちな「家族滞在ビザ」への波及リスク
休職する外国人社員に、帯同している配偶者や子供(家族滞在ビザ)がいる場合、重大な注意点があります。
主たる生計維持者である本人が入院して収入が減ったからといって、配偶者が生活費を稼ぐために「週28時間」を超えてアルバイトをすることは違法です。資格外活動許可の違反(オーバーワーク)となれば、次回の更新時に家族全員のビザが不許可となり、一斉に帰国を余儀なくされる事態に直面します。企業は本人だけでなく、家族を含めた適法な生活維持の枠組みを正しくアナウンスすることが求められます。
外国人社員の長期休職は、労働法と入管法が複雑に絡み合うデリケートな事案です。採用を確定させた労働者を守り抜くためにも、事実関係の正確な把握と、入国管理局に対する透明性の高い立証手続きを徹底してください。